いや、最近物忘れが激しくて、という話ではなく。
今日息子を保育園に迎えに行った帰り、唐突に60前後とおぼしき女性に声をかけられた。(娘は昼過ぎに半休を取った妻が回収済み)
「すみません、私、どうしたんですかねぇ?」
目が点になる私。何が言いたいのかつかめなくて相手の出方を見守っていると、駐車場に止めてある車の方を見ながら
「車、どうしちゃったんですかねぇ?」
息子連れだったこともあって、正直見切りを付けて家に帰ろうかと思った。風体もやや浮浪者に近い印象だったし。が、真剣に困っていそうだったので話を聞いてみる。道に迷ったようだったので、要は「あっちの方です」と言えばそれで終わると思ったので。
しかし女性の口から出てきたのは
「私、アルツハイマーみたいなんですよ」
という衝撃の言葉。
ドキュメンタリー番組が好きなので知識だけはあるのだが、さすがにアルツハイマーの人を目の当たりにするのは初めてなので内心たじろいだ。
会話して分かったのは
・アルツハイマーである
・宣告された時は目の前が真っ白になった
・住所は言える (が、私の方が場所を特定出来ない……)
・どちらから来たのか分からない
・過去にも帰れなくなって交番に世話になったことがある
・交番に世話になると、家族はいい顔をしない
とは言え私がその住所へ連れて行くことが出来ないので、「帰れないで一晩中さまよったりするくらいなら、交番にお世話になってでもちゃんと帰宅した方がいいですよ。お巡りさんはそれもお仕事なんですから」と言って、徒歩5分強の場所にある駐在所へ行くことに。
道中、黙々と歩くのも何なのであれこれ話をしたのだが、
・アルツハイマーになってから、急に家族がよそよそしくなった
・来客があっても「おまえはいい」と言われる
・家族が自分に何もさせないようにする
話していて思ったのは、「アルツハイマーの進行は止められないが、進行を少しでも遅らせる方法があるはず」ということ。この人の言うように「何もさせない(心配だから / 面倒だから)」という方向に行くとますます進行してしまうのではないだろうか。
確かにずっと目を配っているのは、周囲の人にとってはかなりの負担だ。けれど普通の人と同じように身の回りのことを行い、一人では無理でも外出して刺激を受けることで多少なりとも進行が抑えられるのではないだろうか。(この辺、無知故の発言)
孤立させるのは最も良くないことだと思う。
どうやらこの女性は、家族が外出するので「自分も連れて行ってもらえるのかな」と思っていたら、自分を待たずに家族の車が行ってしまい、そのままふらふら歩いていたらしい。だから最初に車の話をしたのか、と納得。
交番に到着してみると、人がいない。「ご用の場合はこちらへ」と電話番号が書いてあったので携帯でかけてみると、最寄りの警察署へつながった。
そこで事情を説明すると、警察の人が駐在所まで来てくれることに。電話の相手がやや面倒くさそうな口調だったのに引っかかるが、車(普通の乗用車だった。覆面パトカー?)で来たのは親切そうな人だったので安心。
そこで女性を引き渡して、私と息子は帰宅。息子、文句もわがままも言わずにじっと待っていて実に偉かった。
この女性は発症してからまだそれほど経っていないのか、会話を交わしているとごく普通の人だった。やや「思い出す」という行為が苦手な様子はあったが、様々なことを覚えている。
ただ、さすがに自分がアルツハイマーという事(そしてそれに伴う家族の態度の変化)にショックを受けているようで、かわいそうなほど自分に自信がないようだった。
今回は赤の他人と言うことで派出所へ連れて行くだけで済んだが、「もし自分の親がそうなったら」と思うと急に心配になってきた。果たして今日のように自然に接することが出来るだろうか。イライラして怒りをぶつけてしまったり、無視してしまったりしないだろうか。
あるいは遠い(若年性ならそう遠くない)未来に自分がアルツハイマーになったら、人に迷惑を与えないように行動出来るだろうか。
「知っているつもり」と「知っている」の間には、かなりの距離があることを痛感させられた出来事だった。
ちなみに先ほど警察の方から電話があって、無事に送り届けたとのこと。何よりである。(警察のお世話になったので、家族からまた何か言われてしまうのかもしれないが)
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